ホーム>相続対策>家族信託(民事信託)>アパートオーナー必見!!アパート経営の認知症対策には家族信託
目次

1.アパート経営をする賃貸オーナーに必要な「認知症対策」

  1. 「認知症対策」をしない事による危険性
  2. 成年後見制度では何かと不都合が生じやすい
  3. 「家族信託」とは認知症対策に最適な財産管理方法

2.アパート経営に家族信託を利用するメリット

  1. 委託者が認知症となっても受託者が単独で管理・運用・処分行為が出来る
  2. 委託者や受託者が破産してもアパートは差押えの対象とならない
  3. アパートの最終的な承継先を自由に設定できる

3.アパート経営に家族信託を利用するデメリット

  1. 家族信託の専門家が少ない
  2. 税務申告が大変になる
  3. 信託財産以外は別の認知症対策が必要
  4. 信託財産以外との損益通算・損失の繰越が出来ない

4.アパートローンの返済方法

  1. 委託者がそのまま返済していくケース
  2. 受託者が債務引き受けをするケース
  3. アパートローンの借り換えをするケース

5.賃貸アパートを家族信託する際の注意点

  1. アパート経営に関する情報の連携
  2. 入居者・管理会社・火災保険会社などにも説明が必要

6.家族信託を利用するには周囲の理解が何より大事

 

1.アパート経営をする賃貸オーナーに必要な「認知症対策」

  • 将来の資産形成のために不動産投資を始めた方
  • 相続等で賃貸アパートを引き継いだ方

にとって、将来の相続税対策を気にする方は多いと思います。

しかし同時に、アパート経営をする上で「認知症対策」についても、相続税対策と同等またはそれ以上にしっかりと検討する必要があります。

 

1-1.「認知症対策」をしない事による危険性

 

アパート経営において、認知症対策をしない事で次のようなリスクがあります。

  • アパートの入居者や賃料収支を正しく把握できない
  • 空室があっても賃貸募集が出来ない
  • 大きな修繕が必要となった際の契約が出来ない
  • ローンの借り換えやより収益性の高い物件の契約が出来ない
  • 将来のアパートの承継先を決められない

 

アパート経営には賃貸オーナーの「本人の意思確認」が必要となる場面が多々あります。

アパートの備品購入等の簡単な管理事務の用事であれば、ご家族が代理で行うことも可能ですが、原則として契約事項については、たとえご家族であっても代理する事が出来ません

そのため、認知症対策をしないでいると、上記に挙げたような場面で不利益を被ってしまう危険性があります。

 

1-2.成年後見制度では何かと不都合が生じやすい

 

仮に何も対策をしないまま、賃貸オーナーが認知症を発症してしまった場合でも、「成年後見人制度」を利用する事で、「成年後見人」となった方が本人の代理をすることが出来ます。

とは言え、実は成年後見人制度では何かと不都合が生じやすいという側面もあります。

  • 成年後見人の最終決定権限は「家庭裁判所」にある
  • 後見人や後見監督人の報酬が発生する事もある
  • 本人の代理人であるため、本人の財産が目減りするような事は出来ない
  • 後見事務の報告が煩雑である

上記に挙げたように、成年後見人に家族以外の人が選任されてしまうリスクや、相続人のための相続対策が出来なくなるリスクを考慮する必要があります

そのため、認知症対策は賃貸オーナーにとって必要不可欠と言えるでしょう。

 

1-3.「家族信託」とは認知症対策に最適な財産管理方法

 

家族信託とは、認知症対策に最適な財産管理の手法の1つです。

財産を保有する人(委託者)が、信頼のおける家族や親族など(受託者)に財産の管理・運用・処分を託し、そこから発生する利益を指定された人(受益者)が受け取る、という信託契約の一種です。

信託契約というと馴染みが薄いかもしれませんが、信託銀行や信託会社が分かりやすいかもしれません。

信託銀行や信託会社は、顧客から財産を預かり、その財産を運用した利益を顧客に還元、信託報酬を受け取るという事業構造です。

これらの会社は、信託業法のもと信託に関する業務を行うため、これらの営利目的の信託を「商事信託」といいます。

これに対して、非営利目的である信託を「民事信託」と言い、家族の誰かに財産の管理を任せるケースが多く、俗称として「家族信託」と呼ばれています。

家族信託では、財産を信託する目的は、家族のために適切にその財産を管理したり、相続対策として利用したりすることにあります

特に認知症対策の信託構造として、賃貸オーナーの場合、次のような信託が一般的です。

【事例 】賃貸オーナーの父の認知症対策で家族信託を利用する場合

  • 委託者:父(賃貸オーナー)
  • 受託者:子
  • 受益者:父
  • 信託財産:賃貸アパートと諸経費のための金銭

 

家族信託の基本やメリット・デメリットについては他のトピックスにてご紹介していますので、こちらも併せてご参照ください。

→遺産相続対策に効果的な家族信託の基本と具体的な活用方法

→家族信託のメリット・デメリット|事例を交えて司法書士が解説

 

2.アパート経営に家族信託を利用するメリット

アパート経営に家族信託を利用する事で、次のようなメリットが挙がります。

 

それぞれ見ていきましょう。

 

2-1.委託者が認知症となっても受託者が単独で管理・運用・処分行為が出来る

 

アパート経営において、賃貸オーナーの権限を行使する場面の代表的なものとして、

管理(建物の修繕、賃料収支の確認等)

運用(入居者の新規募集、契約の更新)

処分(アパートの売却、建替、新規購入)

が挙がりますが、いずれも、契約書の締結時にオーナーとしての意思確認が必要となります。

前述のとおり、認知症発症し判断能力の低下・喪失と判断されてしまうと、いずれの契約行為も出来なくなってしまいます

家族信託を利用すると、オーナーとして賃料収入を受けるメリットはそのままに、契約事などの事務については信頼できる家族に任せる事が可能となります。

先程の事例ですと、

  1. 信託契約の際に、賃貸アパートの登記名義上の所有権は父→子へと移転
  2. 子は受託者として、これまで父が行ってきたアパート経営の事務手続きを引き受ける

という流れになります。

不動産の名義変更というと生前贈与という手法もありますが、両者には次のような違いがあります。

 

生前贈与

  • 所有権そのものが移動してしまうため、名義変更後の賃料収入は子のものとなってしまう
  • 子に贈与税がかかってしまう(相続税より税率が高い)

 

家族信託

  • 「委託者兼受益者=父」としているため、信託契約前と同様に、賃料は父が受け取ることができる
  • 登記簿上の名義は変更しても本質的な権利が移動していないため、贈与税や不動産取得税が発生しない

その上で、登記簿上の名義は子に変更されているため、

  • 新規・更新の賃貸契約
  • 修繕工事の契約
  • ローン契約
  • アパートの売却・新規購入(信託契約内の範囲内のみ)

といった行為を、受託者である子が単独で行うことできます

また、委託者である父の判断能力が健在なうちから家族信託を開始すれば、最初は不慣れなアパート経営のノウハウについて、受託者である子にしっかりと伝授できる、というメリットもあります。

 

2-2.委託者や受託者が破産してもアパートは差押えの対象とならない

 

信託契約内で信託財産として指定された不動産や金銭は、委託者・受託者それぞれの固有財産とは区別されます。

そのため、仮に委託者や受託者が破産して財産差し押さえ、といった状況になっても、信託財産は差押えの対象外となりますので、安心して信託契約を継続できます倒産隔離機能)。

 

2-3.アパートの最終的な承継先を自由に設定できる

 

財産を特定の誰かに承継させると言えば、「遺言」という代表的な生前対策の手法がありますが、遺言には弱点とも言える特徴があります。

  • 遺言者は遺言内容が実行されたかどうか確認できない(その時点で亡くなっているため)
  • 遺言内容を受遺者が拒否する可能性もある
  • 一代限りにしか承継できない(受遺者の所有物となるため)

実は、家族信託にも遺言同様(またはそれ以上)の効果を得る信託設計をすることが出来ます(遺言代用信託)。

  • 当事者による信託契約のため、信託開始時点から確実に内容の遂行・効果が期待できる
  • 信託契約の受益者を連続して指定することが出来る(複数世代の財産承継が可能)

 

この特徴を利用する事で、自身→配偶者→弟といった具合に、法定相続に縛られない財産の承継も可能となります(受益者連続型信託)。

→家族信託を使って「遺言」と同様の効果を得る方法とは?|「遺言代用信託」の活用方法や遺言との違いについて解説

→家族信託で「先祖代々の土地」を護る方法|複数世代に渡った財産承継のやり方を司法書士が解説

 

3.アパート経営に家族信託を利用するデメリット

家族信託を利用するメリットがある一方で、デメリットも把握しておく必要があります。

 

こちらもそれぞれ確認しておきましょう。

 

3-1.家族信託の専門家が少ない

 

家族信託は他の生前対策に比べて歴史が浅く、また契約の性質上、長期間に及ぶことが想定される為、信託契約が活用された結果についても実例が多くない、というのが現状です。

そのため、他の対策手法に比べて専門家が少ない、という難点があります。

ホームページ上では家族信託を謳っていても、実際の経験は1桁台しかない、といった場合もあります。

また、登記には司法書士、税務には税理士と、複数の専門家の連携が必須となります。

そのため、生前対策の実績に定評があり、他士業のネットワークに強い専門家を選ぶ必要があります

 

3-2.税務申告が煩雑になる

 

賃貸アパートを信託した場合、税務署に次のような届出・申告が必要となります。

  • 信託計算書と信託計算書合計表の提出(信託財産から収入が発生した年の翌年の1/31まで)※信託財産から年間3万円以上の収入がある場合
  • 受益者の不動産所得についての確定申告(信託財産から収入が発生した年の翌年の2/1~3/15まで)

信託契約の内容によっては、受益者が複数人いるケースもあり、その場合、受益者全員分の確定申告をする必要があります。

そのため、アパートを単独所有していた時に比べ、受託者の申告の手間は煩雑になってしまいます

 

3-3.信託財産以外は別の対策が必要

 

メリットでも記載しましたが、信託財産は委託者・受託者それぞれの固有財産と区別されます。

そのため、信託財産以外の賃貸オーナーの固有財産については、家族信託とは別の対策が必要です。

認知症対策としては、「任意後見制度」「財産管理等委任契約」「見守り契約」等がありますし、遺産分割対策としては「遺言」の利用も検討しましょう。

いずれにしても、家族信託だけではなく複合的な対策が必要となります。

→認知症の親の年金を管理するにはどうすれば良い??|家族信託と成年後見制度を利用した財産管理方法を解説

 

3-4.信託財産以外との損益通算が出来ない

 

賃貸オーナーが複数のアパートを経営している場合、黒字物件と赤字物件を損益通算しているケースもあるでしょう。

家族信託を利用している場合、損益通算のルールは下記のように異なってきます。

  • 信託外の不動産同士での損益通算はOK
  • 同一信託内の不動産同士での損益通算はOK
  • 信託外の不動産と信託内の不動産での損益通算はNG

 

また、大規模修繕等で大きな赤字が出る場合でも、信託不動産の赤字部分は「切り捨てる=0(ゼロ)とみなす」というルールがあります

そのため、複数の物件を所有する賃貸オーナーについては、上記を念頭に置いて、どの物件を信託財産ととするかを決める必要があるでしょう。

 

4.アパートローンの返済方法

アパート経営をしている賃貸オーナーの中には、相続対策の一環として金融機関で融資を受けてアパートを建て、現在返済中の方もいるでしょう。

アパートローンが設定されている場合、その不動産を信託財産とするには注意が必要です。

家族信託は信託契約ですので、ローンの残債がある不動産を信託財産とする事自体に問題はありません。

ただし、ローンや保証債務などのマイナス財産は信託財産にすることはできないため、このローンをどう返済していくかを決めなくてはなりません。

また、そもそものアパートローン契約時の金銭消費貸借契約の中で、融資対象の不動産を信託財産に出来ない旨の特約が設定されているケースもあります。

信託財産に盛り込める場合でも、今後どのように返済していくかについて厳格に指定されている事もあるのです。

そのため、アパートローンを設定している金融機関に、まずは相談する事が重要です。

折り合いがつかない場合、現在のローンについて借換えを検討する必要もあるでしょう。

アパートローンの残債をどう扱っていくかは次の3つのケースが想定されます。

  1. 委託者がそのまま返済していくケース
  2. 受託者が債務引き受けをするケース
  3. アパートローンの借り換えをするケース

それぞれのケースについて確認していきましょう。

 

4-1.委託者がそのまま返済していくケース

 

ローン対象のアパートを信託財産とした後もそのまま委託者が返済を続けていく場合、

次のような状況が想定されます。

  • 賃貸料は信託口口座に入金される
  • ローン返済は委託者名義の口座から引き下ろしor振り込まれる
  • 委託者名義の口座残高が減り続けるので定期的に資金移動が必要となる

また、信託財産には倒産隔離機能が働くため信託契約当事者にとって安心材料ですが、金融機関側からするとローン返済が滞ってもアパートを差押えできないリスクとなります。

そのため実務上、このケースでは信託財産にする承諾自体が得られない場合がほとんどでしょう。

 

4-2.受託者が債務引き受けをするケース

 

債務引き受けとは、債務を第三者が債務者に代わり引き受けることを指します。

信託財産の債務引き受けについては、基本的に委託者のローンを受託者が引き受けるケースが一般的でしょう。

受託者が債務引き受けをすると、家賃収入が入る信託口口座を凍結できるようになるため、金融機関がローンのついたアパートを信託財産に組み入れることを承認する可能性が高くなります。

債務引き受けには、次の2つの方法があります。

  • 免責的債務引受…委託者の債務はなくなり、受託者が引受人として同一債務を負担
  • 重畳的債務引受…委託者の債務はそのままで、受託者が連帯債務者として債務を負担

 

金融機関によって債務引受方法が指定されている場合もありますので確認が必要です。

 

4-3.アパートローンの借り換えをするケース

 

1,2の方法を取れなかった場合に、新規ローンを組んで既存ローンを返済する、ローンの借り換えをするケースもあります。

既存の借入先金融機関が消極的な場合、家族信託に積極的な金融機関も検討しましょう

家族信託の信託口口座の開設ができる金融機関については、別トピックスに紹介していますので、こちらもご参照ください。

→家族信託で利用する「信託口口座」とは??

 

5.賃貸アパートを家族信託する際の注意点

前述のとおり、アパートローンがある場合の金融機関への対応の他にも、いくつか注意する点があります。

  1. アパート経営に関する情報の連携
  2. 入居者・管理会社・火災保険会社などにも説明が必要

いざ家族信託をするとなっても、上記項目を把握しておかないと、実際に受託者がアパート経営を任された後にトラブルが発生する可能性があります。

 

5-1.アパート経営に関する情報の連携

 

アパート経営と一言で表しても、アパートの住所・部屋数、賃料収入、建物の現況、入居者に関して、と多くの情報があるため、受託者にしっかりと情報共有しておく必要があります。

下記にその具体例を記載しておきます。

 

≪賃料収支に関する情報≫

※管理会社に管理を委託している場合は、毎月の収支報告書にて確認

収入の例

  • 各部屋の賃料・管理費
  • 月極駐車場やトランクルーム、コインランドリー、専用庭など付帯設備の利用料
  • 水道光熱費(オーナーが集金し、オーナーが水道局等へ支払う場合)
  • 電柱の設置料(NTTや東京電力から支払われる地代)

 

支出の例

  • 固定資産税、都市計画税
  • アパートローンの総額・毎月の返済額
  • 賃貸管理会社への費用(いわゆる入居者管理で、賃貸管理会社に支払っている場合)
  • ビルメンテナンス費用(建物の保守管理費用で、エレベーターや清掃の会社などに支払う場合)
  • インターネットやCATVなどの回線料の負担
  • 町内会などの組合費
  • 火災保険料
  • 所得税・住民税(直近3年分程度の確定申告書で確認)
  • 入居者入れ替え時のリフォーム費用

 

≪土地や建物、入居者に関するトラブル≫

土地や建物、入居者とのトラブルなどこれまでの問題点とその解決方法について子と共有しておくと、同じようなことが起きたときの対処方法が分かります。

 

土地の問題例

  • 隣地との土地の境界
  • 水道管やブロック堀等の隣地への越境・被越境
  • 水害エリア、汚染物質等の埋没エリアにある など

 

建物の問題例

  • 天井や窓枠からの雨漏り
  • 壁面の亀裂、外壁塗装の剥離
  • 給排水管などの耐用年数超過
  • アスベスト含有率
  • 耐震性 など

 

入居者との問題例

  • 入居者同士の騒音トラブル
  • 賃料滞納
  • 賃料増減の請求で合意が取れない
  • 更新料の支払いがなく、法定更新になっている
  • 敷地や貸室内で過去に事件や事故があった
  • 設備交換などを必要以上に求めてくる など

 

5-2.入居者・管理会社・火災保険会社などにも説明が必要

 

賃貸アパートを信託財産にした場合、アパートの賃借人に対して、これまでの賃料振込口座から受託者の信託口口座に家賃を振り込んでもらうため、「振込先変更通知書」を送付する必要があります。

委託者が元々賃貸管理会社に管理を依頼していた場合、賃貸人の地位・家賃の振込口座が委託者→受託者へと変わるため、入居者への連絡・対応をスムーズにしてもらえるように協力をお願いしましょう

火災保険会社に対しても、家族信託をしたことを共有しておく必要があります。

保険事故が発生した時に告知義務違反とされ、保険金が支払われない可能性があるからです

 

6.家族信託を利用するには周囲の理解が何より大事

家族信託をするメリット・デメリット、注意点を挙げてきましたが、何より重要なのが、家族信託をする際には周囲にしっかりと説明をし、家族信託への理解を得る事です。

信託契約という特性上、当事者間での同意がとれていれば、家族信託を実行することはできます。

ただし、何も知らされていない家族にとっては、

  • アパートの名義や振込口座が勝手に変更されている
  • 勝手に賃貸契約や修繕工事、売却等がされている

といった印象を持ち、後々争いに発展しかねません。

そのため、当事者ではない周囲の人達に対しても、

  • 家族信託そのものに対する理解
  • なぜ今家族信託をしておくべきなのか

という事について、しっかりと伝えて協力体制を整えておくべきでしょう。

また、法務・税務・不動産に対する知識が必要となりますので、各専門家への連携体制を整えておくことも必須事項です。

当法人では、相続・不動産の専門チームが提携税理士と連携して総合コンサルティングをご提供いたします。

家族信託をご検討の際は、司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、是非一度ご相談ください。

 

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