成年後見制度とは、本人(被後見人)の意思能力が低いまたは喪失している状態にあり、ある程度の期間継続している場合に、本人の判断を他の者(後見人)が補うことによって、本人を法的に支援するための制度です。
過去のトピックスでは「法定後見制度」の概要をご説明させて頂きました。
ところで、みなさまは「任意後見」という制度をご存じでしょうか。
お客様からは、『名前は聞いたことがあるけど、内容がよくわからないから教えてほしい』『成年後見人の制度とはなにが違うの?』といったご相談・ご質問をよくお聞きします。
そこで今回は任意後見制度の概要についてご説明致します。
1.成年後見制度の概要
まず、制度の枠組みとして「成年後見制度」は大きく2つの制度、「法定後見制度」と「任意後見制度」に分かれています。
成年後見制度とは、判断能力が不十分な方々を法律面や生活面で保護したり支援する制度のことです。
この「成年後見制度」は、
- ノーマライゼーション
- 自己決定の尊重
- 身上配慮義務
という3つの理念を基にしており、「成年後見人」は単に財産を管理するにとどまらず、本人の生活を支える役割を担っているといわれています。
私たちは誰でも歳をとります。そして、年齢を重ねるとどうしても判断能力が落ちてきてしまいます。
判断能力とは、“自分が起こした行動がどのような結果になるかを判断できる能力”のことをいいます。
年齢を重ねて判断能力が落ちてきたときに、騙されて高価な買い物をさせられたり、自分の財産を管理できなくなってしまったりと、沢山の不安要素が考えられます。
そんなときでも安心して生活が出来るように「成年後見制度」が存在し、本人が成年後見制度を利用して自分らしく生きることを支援していくことこそが、成年後見人の大きな役割となっています。
2.法定後見制度と任意後見制度の違い
- 法定後見制度……すでに判断能力が不十分な人に代わって、法律行為をする制度
- 任意後見制度……今は元気だが、将来判断能力が不十分になった時に備える制度
法定後見制度と任意後見制度との一番の大きな違いは、“今、判断能力が十分かどうか”という点です。
任意後見制度は「後見を利用する人」と「後見人となる人」との“契約”になります。
そのため、後見を利用する人が「この人に○○をお願いしたい」「○○なときには○○をしてほしい」と明確に考え、伝えられること=意思能力があることが前提となります。
また、法定後見制度は家庭裁判所に成年後見申立てをし、家庭裁判所が成年後見人を選任するのに対して、任意後見制度は将来の不安に備えて自分で後見人になってほしい人と契約をし、将来判断能力が不十分になった時に希望通りの人が後見人になる制度になります。
3.任意後見制度の概要
任意後見制度のおおまかな流れは下記のようになります。
詳細については6にて後述しますので、こちらでは流れを押さえておきましょう。
1.任意後見の3つのパターンからどのパターンにするかを選択する
- 即効型……契約と同時に任意後見監督人申立てを家庭裁判所におこなう
- 移行型……任意後見契約と任意代理契約を締結する
- 将来型……任意後見契約だけを締結する
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2.契約内容を決定する
任意後見契約の内容を詳細に決めていきます。
また、移行型の場合は合わせて任意代理契約の内容も決定していきます。
↓
3.公正証書にて契約書を作成
将来任意後見人となる人と契約を締結します。
この段階では、まだ任意後見契約の効力は発生せず、将来に備えている状態です。
この時の将来任意後見人となる方を「任意後見受任者」と呼びます。
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4.家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立て
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5.家庭裁判所が任意後見監督人を選任
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6.任意後見人としての支援開始
「任意後見受任者」から「任意後見人」となります。
4.任意後見契約の効力発生
どの時点で任意後見契約の効力が発生するかといいますと、それは「任意後見監督人が選任されたとき」です。
将来に備えて任意後見契約を締結した時点では、まだ意思能力に問題はなく普段通りの生活を続けていきます。
その後、意思能力に不安が生じ後見支援を始める必要が出てきたときに、家庭裁判所への「任意後見を開始する」ための「任意後見監督人」の選任を申立てます。
この任意後見監督人が裁判所によって選任されて初めて、任意後見契約の効力が生じることになります。
任意後見契約の締結
将来意思能力が低下したときに必要な支援を、本人と「任意後見受任者」とで任意後見契約の締結をします。
なお、この時点ではまだ契約内容の支援は開始されません。
意思能力の低下・家庭裁判所への申立
本人の意思能力が低下したときに、本人・配偶者・4親等内の親族・任意後見受任者から「任意後見監督人」の選任申立てをします。
家庭裁判所の審判・審判内容の登記
申立内容を家庭裁判所が調査・審問し、任意後見監督人の選任の審判をします。
家庭裁判所で審判がされると、任意後見登記事項に「任意後見受任者」から「任意後見人」と記載され、任意後見監督人とともに登記されます。
ここで初めて契約の効力が生じ、支援が始まります。
しかし、任意後見契約を締結した時点で生活に対する不安があったり、意思能力は問題ないが金融資産の管理をお願いしたいなど、様々な状況が考えられます。
そこで任意後見制度には3つのパターンがあり、本人の生活状況を支援する仕組みが制度として作られています。
5.任意後見制度の3パターン
ここで改めて任意後見制度の3つのパターンについてご説明します。
- 即効型……契約と同時に任意後見監督人申し立てを家庭裁判所におこなう
- 移行型……任意後見契約と任意代理契約を締結する
- 将来型……任意後見契約だけを締結する
即効型は、任意後見契約と同時に任意後見監督人の選任申立をすることで、すぐに任意後見人の支援が始まります。
移行型は、任意後見契約の内容の実現は将来意思能力が低下した際に、任意後見監督人を選任することにより実現させます。
契約の際に、現時点で支援してほしい内容を別途「みまもり契約」や「財産管理契約」を通常の委任契約として締結し、任意代理人に支援してもらいます。
将来型は、現時点では生活に不安はないので、将来のために支援内容を決めて任意後見契約を締結し、意思能力が低下するまではそのままの生活をしていきます。
6.任意後見制度利用の流れ
ここで改めて、任意後見制度を利用するにあたっての具体的な流れを確認していきましょう。
- 3つのパターンから選択
- 任意後見契約内容の決定
- 任意代理契約の締結・支援の開始
- 公正証書にで任意後見契約を締結
- 任意後見監督人選任を家庭裁判所に申立
- 家庭裁判所の審判
- 任意後見契約の効力発生・支援開始
- 任意後見契約の終了
順を追って確認していきます。
①3つのパターンから選択
即効型・移行型・将来型の3パターンから自分に合ったものを選びます。
②任意後見契約内容の決定
下記の2つを確定します。
- 任意後見受任者の決定
- 任意後見契約内容の決定
任意後見受任者とは、『判断能力が不十分になった後に支援してくれる人=将来的な任意後見人』を指します。
任意後見人になるのに資格は必要ありません。
未成年者や破産者等以外で、信頼できる家族や親戚もしくは司法書士や弁護士、その法人と契約する事もできます。
誰に依頼するのかは今後に直接的に関わってきますので、十分に検討し実際にその方とよく話し合って決めていきましょう。
契約内容に記載された事項に基づいて支援が行われるので、契約内容に不備があると、自分が支援してほしいことがやってもらえない等の不具合が出てしまいますので慎重に検討しましょう。
支援する内容ごとに細かく決定しておく必要があり、任意後見人の報酬額や支払方法等も契約にて決めていきます。
「施設に入所する場合はどこがいい」「かかりつけ医はどこの病院」等ライフプランを作成し、決めていきます。
③任意代理契約の締結・支援の開始
意思能力が低下する前にすでに支援を始める「移行型」の場合、任意後見契約のほかに「見守り契約」や「財産管理契約」等の任意代理契約を結び、任意代理人による支援が始まります。
契約内容をライフプランに沿って細かく決め、希望する支援が受けられるよう契約しましょう。
④公正証書にて任意後見契約を締結
契約内容をよく検討し内容が決定したら、任意後見契約を公正証書で締結します。
任意後見受任者の氏名、任意後見契約で締結した内容が登記されます。
移行型を選択した場合、同時に任意代理契約も公正証書にすることがあります。
この際、任意後見契約は公正証書で締結しないといけないので注意が必要です。
任意後見契約締結までは上記の流れで終了し、後々の将来に判断能力が不十分になったら支援が始まります。
⑤任意後見監督人選任を家庭裁判所へ申立
本人に認知症の症状がみられるなど、本人の判断能力が低下したら、本人の住所地の家庭裁判所に「任意後見監督人」選任を申立てます。
申立が出来るのは本人・配偶者・四親等内の親族・任意後見受任者のいずれかで、本人以外の申立の場合、本人の同意が必要となります。
⑥家庭裁判所の審判
家庭裁判所が調査・審問・鑑定等して必要性を判断し、任意後見監督人を選任します。選任がされると、申立人や任意後見人等に通知され、審判内容が登記されます。
※移行型の場合、任意代理契約が終了し任意後見での支援開始となります。
任意後見監督人選任の審判への抗告期間が終了すると、いよいよ支援が始まります。
⑦任意後見契約の効力発生・支援開始
支援する人の呼び名が「任意後見受任者」から「任意後見人」に変わります。
公正証書で締結した任意後見契約内容に基づき、支援が始まり、裁判所の選任した任意後見監督人が任意後見人を監督します。
報酬については、任意後見人は契約で定めた報酬額、任意後見監督人は家庭裁判所が決定した額となります。
⑧任意後見契約の終了
本人または任意後見人が死亡・破産すると契約は終了します。
また、任意後見人が認知症等により被後見人になった時も任意後見契約は終了しますので、その点も考慮して任意後見人を選任しておきましょう。
任意後見契約の内容は今後のご本人様の人生にかかってくる大事な内容になります。
任意後見制度を利用するにあたり、本人の意思や生活状況、周りの方の支援の状況等を踏まえてどの形が一番ふさわしいか、を考え選択する必要があります。
また、将来のことまで見据えて契約内容を締結していかなければ、様々なリスクや不安に対応できません。
手続きの流れの各項目ごとに注意するべき点がありますので、任意後見制度の利用にあたっては、専門家を交えて検討していくことをお勧めいたします。
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