平成15年度税制改正において経済活性化の為に新たに創設された「相続時精算課税制度」。
実務ではなかなかお目にかかれないこの制度ですが、今回は、この制度を利用して問題解決をした事案をご紹介してみたいと思います。
なお、令和5年度税制改正大綱により相続時精算課税制度の見直しがされましたので、こちらは別のトピックスにてご紹介いたします。
1.相続時精算課税制度について
まず、相続時精算課税制度とは、60歳以上の父母、祖父母(平成26年までは65歳以上の父母)から20歳以上の子、孫(平成26年までは20歳以上の子)へ贈与をした場合、相続時精算課税制度を選択した贈与税申告を税務署にすることで、最大2,500万円までの贈与に関しては贈与税を課税しないという制度です。
高齢者は基本、大きなお金を使う機会がなかなかありません。
一方で若い人は大きなお金を持っておらず、消費が活性化しないといった理由から、早めに次世代に財産を贈与させ、経済を活性化させようとして新設された制度で、一見聞こえが良い制度なのですが、実務上ほとんど利用されるケースがありません。
なぜなら、この制度には裏があり、贈与された財産は「相続財産の前渡し」と考えられ、贈与した父母等が亡くなった場合、その財産は贈与した父母等の相続財産として足し戻しの対象として計上しなければならないことから、あまり節税の意味がないと言われているからなのです。
つまり、読んで字のごとく、贈与時には2,500万円までの贈与であれば課税しないが、贈与者に相続が発生したらその時点で精算するという、いわば贈与税のツケ払いの様な制度なのです。
2.相続時精算課税制度を利用した資産承継方法
前述した制度の性質上、相続税がかかるご家庭の節税対策では、まず利用されないことがほとんどです。
しかし、考え方を変えれば、将来相続税が発生しないことが確実視される場合は、認知症対策としての資産承継対策に利用することが出来ます。
下記の相続関係において、実際に当法人が相談を受け提案をした事例をご紹介します。
(※税務相談及び税務申告部分は提携税理士によります。)
【事例】
- 被相続人の遺産は自宅マンションの持分3分の2のみ
- 配偶者は78歳で、配偶者の財産は、自宅マンションの3分の1(評価額650万円程)及び預貯金240万円のみで、計890万円相当
- 配偶者が亡くなった場合の相続税の基礎控除額は4,200万円であり、聴取した内容では相続税はかからないと見込まれる
- 長男長女は父の遺産は、兄弟で2分の1ずつ取得し、将来母が施設に入る際の入居費用としていつでも売却出来るようにと考えている
- 配偶者も自分の名義を入れようとは思わないという意向
遺産分割協議については、上記の通りで話がまとまっていきましたが、配偶者にはまだ固有の財産として自宅マンションの3分の1が残っています。
この3分の1を元気な内に何とかしなければ、いざ施設に入ろうとしてお金が必要な時に認知症になっていた場合、成年後見申立て及び居住用財産の許可審判をしなければ売却活動が一切できなくなってしまう恐れがありました。
そこで、当法人の司法書士と提携税理士とでご家族全員と話し合う機会を設け、下記の2つの方法をご提案させて頂きました。
①相続時精算課税制度を利用した自宅マンション3分の1の長男長女への贈与契約
②委託者兼受益者を母とし、受託者を長男又は長女とする家族信託契約
②の家族信託契約は契約条項も複雑でスキーム作りに非常に時間がかかり、計画中に当事者が認知症になってしまうおそれがあることから、今回の相談者の方は①の方法を選択されました。
後日、遺産分割協議書及び贈与契約書に調印を済ませ、自宅マンションの名義は長男長女が2分の1ずつ取得することができ、母の相続対策・認知症対策・老後資金対策をすることが出来ました。
数年前から母の施設費用・扶養のことで、気をもみ続けてきた長男長女の方。手続きを終え、非常に安心した様子でした。
当法人では、依頼者のお話しをじっくりと聞き取り、その依頼者の問題解決のための方策としての選択肢はいくつあるのかを常に考慮し、ご提案することに繋げています。
相続手続き、相続対策等でお困りの場合は、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、まずはお気軽にご相談下さい。
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