1.相続登記の義務化が始まる
令和3年4月21日の閣議決定において、民法・不動産登記法(所有者不明土地関係)の改正が可決されました。
これにより令和6年度を目途に、これまで義務ではなかった『相続登記』が義務化される事になります。
今回のトピックスではここに至るまでの経緯と、今後予定されている施策の概要について取り上げていきたいと思います。
2.日本全国に存在する所有者不明土地
近年、全国で所有者不明土地が年々増加している、と懸念されています。
もともと住んでいた住民が亡くなった後の不動産の登記所有者が未定だったり、または所有者の生死が不明状態である、という意味です。
こういった状態ですと地域住民はもちろん、国や行政の介入もままなりません。
元々は綺麗に手入れされていた状態でも、住人が居なくなった後は建物は老朽化し土地は荒れ果ててしまいますので、その一帯の値域の景観を損なってしまいます。
そればかりか、隣家に老朽化した建物の倒壊の危険性が出てきたり、不法に占拠する者が現れ犯罪の温床にすらなりかねません。
過疎化している地方はもとより、都心部でも高齢者が一人暮らしをしていたりすると、遠方に相続人がいる場合や、遺産分割で揉めている場合などは、上述したような状況になりかねません。
国土交通省の調べでは、平成29年度時点で、所有者不明土地の割合は22%とのデータがあり、高齢化の進展による死亡者数の増加等により今後ますます深刻化が予想されています。
3.放置されたままの『相続登記』
しかしそもそも、なぜ『所有者不明』の状態になってしまうのでしょう?
その大きな要因として挙げられるのが、『登記』の問題です。
ここでポイントとなるのが、『誰が住んでいたか』ではなく、『法務局で管理している登記情報において、誰が所有者として登記されているか』という点です。
「実家に住んでる父親に相続が発生、名義を自分に変更しようとしたら実は不動産の名義が祖父母のままだった。」
こういった内容でご相談に来るお客様は、実はさほど珍しくありません。
『子供が一人だから』『先祖代々、長男が継いできたから』といった理由で、親族間では問題にならずに不動産の登記名義人が変更されないまま、最終的に関係者が亡くなってしまう事もしばしばあります。
そこでいざ名義を変更しようとすると下記の例のように相続関係が思いの外複雑になっていて、遺産分割協議がなかなか進まなかったり、分割案で揉めた結果そのままになってしまったり、という状況が発生しがちです。
【複雑化した遺産分割協議の例】
- 母は既に他界、父に相続が発生した兄妹の遺産分割協議
- 実家には父が一人で住んでいたが、名義を確認したところ祖父名義のままだった。祖父母共に既に他界
- 父には兄姉(相続人である兄妹にとっての叔父・叔母)がいるが、叔父は祖父母より後に他界
- 叔父には子供(相続人の兄妹にとっての従兄弟)が3人いる
このような状態を改善しようと、国側で相続人を特定し周知するため嘱託による調査を行っていましたが、あまりに数が多く現状思うように進んでおりません。
また、誰が相続するかは決定したが、相続人それぞれが対象の不動産とは別の場所におり、「いつかはやらなければならないけれど、義務ではないし、罰則もないし……」と登記が先延ばしになり、手入れや売却もしないまま荒れ地となっている土地等もあります。
そういった様々な事情による結果、前述した問題が引き起こされており、今回の法改正に踏み切ったというわけです。
4.現時点での方針・施策
現在、法務省では下記のページにて今後の方針・施策を打ち出しています。
参考:法務省ホームページ『所有者不明土地の解消に向けた民事基本法制の見直し』
詳細はこちらをご確認頂けますが、いくつかの大きな項目で改正点があります。
今回は相続登記の義務化に絞って、簡単に要約し取り上げてみましょう。
現行
- 相続登記の申請が義務化されていない
- 登記申請をしなくとも不利益を被ることが少ない
法改正後
- 不動産を取得した相続人に対し、その所有権の取得を知った日(不動産を相続したことを知った日)から3年以内に相続登記の申請を義務化(令和6年4月1日施行)
- 遺言書により受遺者となった場合にも、法定相続人は遺言(遺贈)の内容を踏まえた登記申請義務が生じる
- 正当な理由なく申請を怠った場合、10万円以下の過料を徴収する
- 過去に相続が発生していた場合でも、施行日から3年以内の登記申請義務が生じ、この場合も過料の適用がある
上記のとおり、登記申請の義務化と申請を怠った場合のペナルティ(=過料)が明確となりました。
特に注目したい点で、『過去の相続に関しても施行後は申請義務が生じる』ことが明確となっています。
過料についての『正当な理由』の具体的な内容は、今後の通達等で予め明確化されるようです。
【正当な理由があると考えられる例】
- 数次相続が発生して相続人がきわめて多数になり、戸籍謄本などの必要資料の収集や、他の相続人の把握に多くの時間を要するケース
- 遺言の有効性や遺産の範囲が争われているケース
- 申請義務を負う相続人自身に重病等の事情があるケース
また、過料を科す際の具体的な手続についても事前に義務の履行を催告する、など省令等で明確に規定される予定です。
5.登記申請が難しい場合の代替案
現時点で登記申請ができていない相続人の方の中でも、本当ならば早く名義変更したいところだが遺産分割協議がまとまらない、遺言の有効性に疑義がある、等の正当な理由で登記が難しい方もいるでしょう。
そういったケースも踏まえ、登記申請が難しい場合の代替案や申請の要件緩和が予定されています。
相続人申告登記の創設
新たに『相続人申告登記』が創設されます。
これは、
- 所有権の登記名義人について相続が開始した
- 自らがその相続人である
といった内容を法務局の登記官に申し出る事で、登記官が職権により『申請義務を履行したとみなす』という内容の登記を付記する事になります。
この相続人申告登記をする事で、3年以内に登記ができない状況でも申請義務を一時的に果たしたとみなされ、遺産分割成立時点から新たに3年以内に登記申請をすれば義務履行となります。
相続人申告登記は相続人単独での申告も、相続人全員分まとめての代理申告でもすることが可能です。
なお、こちらの申請は司法書士等の第三者が代理申請したケースでも義務履行があったとみなされます。
遺贈による不動産登記申請の要件緩和
遺贈とは、遺言によって相続人または相続人以外の第三者が相続財産を贈与されることを指します。
遺言のなかでも、「■■の不動産を○○に相続させる」と個々の不動産を特定した記載があった場合は、特定財産承継遺言とされています。
同様に遺贈も「○○に財産のすべてを遺贈する」と包括的に指定する包括遺贈と、「○○に■■の不動産を遺贈する」と財産を指定する特定遺贈と大別されます。
同じような内容に聞こえますが、現行法では下記のような違いがあります。
- 特定財産承継遺言と特定遺贈の違い -
ここで注目したいのが、登記申請手続機の際に、特定遺贈の場合は受遺者と遺言執行者または相続人全員での共同申請となる点です。
この共同申請という点がなかなかハードルが高く、
- 遺言執行者に指定されている人(相続人の場合が多い)の協力が得られない
- 遺言執行者の指定がなく、相続人全員のうち特定の相続人の協力が得られない
といった理由で、登記申請が出来ずにいるケースがありました。
今回の改正で、次の要件が緩和されることとなりました。
これにより、相続人は特定財産承継遺言と同様に特定遺贈の場合でも単独申請で登記ができるようになり、不動産登記申請の促進に繋がることが期待されます。
6.その他の改正事項
今回は相続登記の義務化に絞って取り上げましたが、その他の改正点についても下記のような改正が予定されています。
所有不動産記録証明制度の創設
- 特定の者が名義人となっている不動産の一覧を証明書として発行(令和8年4月までに施行)
→相続登記が必要な不動産の把握が容易になると見込まれます。
登記名義人の死亡等の事実の公示
- 登記官が他の公的機関から死亡等の情報を取得し、職権で登記に表示(令和8年4月までに施行)
→登記簿で登記名義人の死亡の有無の確認が可能になると見込まれます。
住所変更登記等の申請義務化
- 登記上の所有者は、その住所等を変更した日から2年以内に住所等の変更登記申請をしなければならない(令和8年4月までに施行)
- 「正当な理由」がなく申請を怠った場合には、5万円以下の過料を徴収する
→所有者情報を最新化し、所有者不明土地の発生予防に繋がることが期待されます。
上記の他にも『相続土地国庫帰属制度の創設』『遺産分割の特別受益の贈与と寄与分の時的制限』など大きな法改正が予定されていますが、別のトピックスにて今後取り上げていきたいと思います。
今回の法改正を機に、登記申請を早めに済ませておきたい、そのままになっていた遺産分割について整理したい、などお考えの方は、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、是非一度お気軽にご相談ください。
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