ホーム>相続対策>家族信託(民事信託), 成年後見制度>認知症の親の年金を管理するにはどうすれば良い??|家族信託と成年後見制度を利用した財産管理方法を解説
目次

 

「認知症対策」の代表として家族信託や成年後見制度が挙がりますが、具体的に生活費の管理やその他の財産管理について、しっかり話し合ったことはありますか?

今回は、認知症になると発生する問題とその解決方法について解説していきます。

 

1.家族信託では「年金」の管理はできる??

家族信託とは、信託契約に基づき、委託者と受託者の間で行う信託契約の一種で、「認知症対策」に最適と言われています。

家族信託では、不動産や預貯金等、委託者が信託したい財産を信託財産として信託契約に盛り込むことで、その後の管理・運用等を受託者が行うことが出来ます。

ところで、一般的な高齢者の方の財産として、本人が所有している不動産や銀行の定期預金等の他、多くの方が「年金」を受給しているのではないでしょうか。

ここで一つ疑問となるのが、「年金」を家族信託を利用して管理することができるのか??という点です。

 

1-1.年金の受け取りは本人名義の口座しか認められない

 

最初に結論から言ってしまいますと、家族信託で「年金」の管理をすることは出来ません。

というのも、年金をもらえる権利=年金受給権は、一身尊属的権利、つまり、相続されない一代限りの権利であり、「譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない」ものと規定されています。

そのため、年金受給権は信託財産とすることができず、本人名義の口座以外で受給する事は出来ません

家族信託の信託財産については、本人固有の財産と区別されるため、信託口口座を別途開設して財産管理するのが一般的です。

信託口口座を開設せずに信託財産を管理する場合でも、信託契約で「信託財産は〇〇銀行の■■口座にある100万円とする」といった具合に、信託財産を明確化する必要があります。

それゆえ、前述したように一身尊属権である年金受給権を信託口口座に振り込むことはできませんし、信託財産として信託契約に盛り込むことも出来ません。

実態として、夫婦の生活費を妻が管理していて、夫の年金も妻が管理している、という家庭もあるでしょうが、その場合はあくまで、年金受給権を持つ夫の口座に振り込まれた本人の年金を、妻に再度振り込んでいる(自動振り込み等も含む)に過ぎないのです。

 

1-2.口座凍結のタイミングは「金融機関が知った時」

 

そもそも、なぜ認知症になると口座凍結されるかというと、その口座名義人の財産を保護することが目的とされています。

認知症となり判断能力が低下すると、これから行う取引がどのような効果を持ち、どのような結果をもたらすかを理解できないまま実行してしまったり、詐欺被害に遭いやすくなるリスクがあります。

また、残念ながら、本人の判断能力が無いからと、身内が財産を使い込んでしまうケースも少なからずあるようです。

こうした事態を防ぐため、金融機関は口座を凍結する措置を取るのです。

では、認知症を発症した本人名義の口座が凍結されるのはどういったタイミングかと言えば、口座名義人が認知症である(もしくはその疑いがある)と「金融機関が知った時」と言われています

家族が直接「口座名義人が認知症である」と連絡した場合は勿論ですが、口座名義人本人が金融機関で何らかの手続きをする際に発覚する、といったケースもあるようです。

 

2.認知症発症後の財産管理は成年後見制度の利用が原則

ひとたび口座が凍結されてしまうと、例え家族であっても、そのままでは口座の利用を再開する事はできません。

認知症等で判断能力がない(または著しく低下している)と判断された場合、本人の意思確認を伴う行為が出来なくなってしまいます

日常的なスーパーでの買い物レベルの契約行為は別ですが、銀行口座の引き出しや本人の署名を必要とする契約行為などは、成年後見人として選任された人以外は代理する事が出来ません。

成年後見制度について、詳しくは別のトピックスにて解説していますので、併せてご参照ください。

→【成年後見制度とは何か?制度の概要と後見人の義務とは】

→【成年後見申立て~手続きの流れと費用、メリット・デメリット~】

 

2-1.法定後見は家族にとっては使い勝手が悪いケースもある

 

成年後見制度には、認知症になった後に利用する「法定後見制度」と、認知症になる前から利用できる「任意後見契約」の2種類があります。

認知症と判断されてしまった後では法定後見しか利用が出来ませんが、実は法定後見は家族にとっては使い勝手が悪いケースもあります。

というのも、成年後見人の選任の最終決定権限は家庭裁判所にあり、家族が成年後見人に立候補したとしても、その人が選ばれるかどうかは分からないのです

家族にとって望まない人選であったとしても、一度後見人が選任されると、その人の働きぶりが適任ではないと家庭裁判所が認めた場合を除き、基本的に後見人を変更する事はできません。

また、成年後見人はあくまでも本人のための代理人としての動いてはくれますが、本人の家族のためには動いてくれません。

例えば、被後見人が名義を共有している家について、同居の家族がリフォームしようとしたところ、そのリフォーム費用が本人の財産を減少させる行為だと成年後見人が許可してくれず結果的にリフォームできない、といった事もあるのです。

 

2-2.金融機関によっては代理人届が利用できる場合もある

 

親の判断能力の低下がごく軽度で、法律上の委任行為を出来る程度であれば、金融機関によっては「代理人届」の提出が可能なところもあります。

代理人届が受理されれば、配偶者や子などの家族が本人の代理として、本人名義の口座から生活費等の引き出しをする事も不可能ではありません。

ただしあくまでも「本人の預金口座の引き出しの代理」という特定行為のみですので、年金を含めた財産管理までを代理する事はできません。

認知症が進行してしまえば、いずれは法律上の委任行為が出来なくなりますので、そうなってしまうと法定後見制度を利用した支援をせざるを得ないのです。

 

3.任意後見契約を利用して認知症に備える

前述のとおり、認知症となってしまった後では成年後見制度を利用する以外に親の財産管理をする事は出来ませんが、できれば後見人には、勝手を知る家族がなりたい、という気持ちもあるでしょう。

就任した成年後見人が本人の事を全く知らない人のケースもあり、家族との折り合いが悪いという場合もあるのです。

そこで、判断能力があるうちに認知症に備える方法として、成年後見制度には「任意後見契約」というものがあります。

任意後見契約とは、まだ本人の判断能力があるうちに、予め将来の任意後見人を指定しておき、財産管理や身上監護(契約行為など)をしてもらえるように後見内容についての取り決めを行える「契約行為」です

本人の判断能力が著しく低下した段階で、家庭裁判所に後見監督人の選任を申立て、そこから任意後見人の権限が発動します。

任意後見契約については、別のトピックスにて解説していますのでこちらも併せてご参照ください。

→【任意後見制度の概要と契約の流れ】

法定後見との大きな違いは、家族などの、本人が望んだ誰かが任意後見人になれる点です。

とはいえ、任意後見人と言えどあくまで本人のための行為をする点では変わりません。

そのため、任意後見人を監督する立場として、家庭裁判所が指定した後見監督人が、後見人が好き勝手しないように活動内容を監督することになります。

また、任意後見契約は後見発動後の財産管理や身上監護がメインですので、本人が認知症と判断される前の様子を確認する「見守り契約」や、後見開始前から財産管理をしていく「財産管理等委任契約」を併せて利用するケースも多いです。

これらの契約には検討すべき点が多いため、利用する際には事前に専門家へ相談すべきでしょう。

 

4.家族信託を併用すると更に柔軟な財産管理が可能

冒頭でお伝えした通り、「年金」の管理は家族信託では出来ないため、成年後見制度を利用して管理していく事になります。

ただし、法定後見にしても任意後見にしても、あくまで親本人のためになる行為が前提ですので、包括的に財産の管理・運用等を家族に任せたい場合には、やはり家族信託の利用が有効です。

そのため、年金を含めた、親の普段の生活費の管理や身上監護について任意後見契約を締結し、例えば資産運用など早期の判断が必要であったり、より受託者に裁量権を持たせたい財産については家族信託を併用することで、更に柔軟な財産管理が可能となります

家族信託には遺言同様の効果を持たせる設計も可能ですので、その後の相続対策としても効果を発揮します。

ただし、任意後見契約も家族信託も、親本人の判断能力がある事が大前提となりますので、親が認知症となってしまう前に生前対策を検討しておく必要があります。

生前対策には相続にとどまらず様々な法知識が必要となりますので、先ずは司法書士等の専門家に相談することをお勧めいたします。

また、生前対策には当事者だけでなく周囲の家族の理解や共通認識が非常に重要となりますので、専門家が第三者の立場から発言する事で、家族が客観的な視点で考えることができるという利点もあります。

相続・生前対策をご検討の際は、目黒区学芸大学駅、渋谷区マークシティの司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまでご相談下さい。

 

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