最近では、相続手続きの中に株式の移管・解約といった手続きが増加傾向にあります。
ひと昔前では相続手続きというと、主に不動産の名義変更と金融機関の預貯金解約が代表的なものでした。
不動産については賃貸暮らしの方は不要ですが、金融機関での手続きはほぼ全員の方に必要となる手続きと言っても差し支えないでしょう。
金融資産というと預貯金が圧倒的多数ですが、近年では株式を保有している方も多く、「どうしたら良いか分からない。」というご相談も増えています。
今回は相続財産に株式がある場合の実務を取り上げてみましょう。
株式には上場株式と非上場株式の二種類がありますが、今回は世間一般での株式=上場株式の場合を取り扱います。
1.株式の管理が難しい理由
故人の遺品を整理していると、預貯金通帳の他に株式に関係する書面が出てくることがあります。
しかし預貯金通帳と比べて、株式に関係する書面は普段、なかなか目にするものでもありません。
また、書面の名称や発行する会社も様々であるため、株式投資の経験がない方にとっては、これらの書面が株式の相続にどう関係するのか、非常に分かりづらいものとなっています。
そこでまずは、上場株式が金融機関でどのように管理されているのかについて触れていきます。
まず、上場株式の管理方法には、以下の2パターンが存在します。
- 証券会社口座で管理されている場合
- 信託銀行の特別口座で管理されている場合
上記を見て、
「株式って証券会社で管理するものじゃないの??」
と思った方もいるのではないでしょうか。
実は、上場株式に関して平成21年1月5日に株券の電子化が行われ、書面での株券は廃止となりました。
この際、従来の株券の保管方法等に応じて、以下のように管理方法が変更となっているのです。
上記に加え、証券会社と信託銀行とで発行する書面の種類も異なります。(後述参照)
そのため株主に対して上場株式に関する書面が発行される場合、一般的には証券会社が作成する書面と、信託銀行が作成する書面が混在することになります。
これが相続人の方々が困惑してしまう理由のひとつになってしまうのです。
2.上場株式の保有銘柄の確認方法
株式の相続手続きを行うためには、故人が保有していた上場株式の詳細を把握する必要があります。
故人がどの銘柄の株式を保有していたのかは、主に以下の書面で調べます。
- 取引残高証明書
- 配当金通知書
- 株主総会招集通知
取引残高証明書は証券会社から送付され、配当金通知書や株主総会招集通知は株主名簿管理人である信託銀行から送付されます。
しかし、お手元にこうした書面が残されていない場合は、ほふりに対して情報開示請求を行うことになります。
これを行うと、どの金融機関が故人の保有株式を管理しているか知ることができ、保有株式のチェック漏れを防ぐことができます。
ただし、開示請求では保有銘柄の詳細までは分からないため、各金融機関に対して保有銘柄の一覧を請求する必要があります。
3.上場株式の相続手続きの流れ
上場株式を管理している金融機関と保有銘柄の内訳が分かったら、株式の相続手続きを進めていきます。
株式の相続手続きは主に次の3つのフローで行っていきます。
下記より詳細を確認していきましょう。
3-1.申請書類の取り寄せ
株式を管理している金融機関に応じて以下の部署に連絡し、相続手続きの申請書類を郵送で取り寄せます。
- 証券会社:故人の口座開設支店
- 信託銀行:証券代行部
証券会社の場合に注意したいのは、「故人の口座開設支店」に連絡するという点です。
証券会社における取引情報の確認は、実際の口座開設支店でしかすることができません。
一方で、銀行預金の口座確認は、一般的にどの支店の窓口でも手続きが可能です。
連絡をすると1~2週間程度で会社所定の必要書類がお手元に届きます。
3-2.必要書類の準備
株式の移管にあたっては、申請書類のほかに下記の書類も準備しなれけばなりません。
- 故人の出生から死亡までの連続した全戸籍(戸籍・除籍・改製原戸籍)
- 相続人全員の現在戸籍
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名と実印の押印が必要)
- 相続人全員の印鑑証明書(有効期限あり)
戸籍の収集に関しては本籍地を管轄している役所に請求していくため、多くの場合、複数の役所に発行請求をかけることになります。
この作業に最短でも1ヶ月はかかりますので、早めの対応が必要です。
3-3.支店窓口にて株式移管手続き
証券会社や信託銀行の窓口で手続きを行い、相続人名義の証券口座に株式を移管いたします。
窓口での手続きに1時間程度かかり、その後、移管の完了までに1ヶ月程度を要します。
なお、移管手続きは支店窓口で行うことを推奨します。
郵送で行うことも出来ますが、戸籍謄本や遺産分割協議書、相続人全員分の印鑑証明書の原本を提出する必要があります。
特に複数の証券会社や信託銀行が手続きの対象となる場合、これらの書類の返送があるまで他の金融機関への手続きは行えないことになりますのでご注意ください。
営業時間については信託銀行の場合は平日9時~15時、証券会社の場合は平日9時~遅くとも17時くらいまでが一般的です。
また以下の点について、預金の相続手続きよりも手間がかかることも念頭におく必要があります。
①株式移管手続きの詳細が金融機関ごとに異なる
預金の相続手続きと比較すると、金融機関ごとに手続き方法が千差万別です。
それぞれの金融機関にあわせて対応を変えていかなければなりません。
②故人の株式を管理する証券会社に相続人が証券口座を持っていない場合は、口座開設が必要
預金の相続手続きと違い、故人の株式を管理する証券会社でなければ株式移管が出来ません。
【例】
- 故人の株式を管理する証券会社:A証券会社
- 相続人が既に開設済みの証券会社:B証券会社
A⇒Bへの移管はできないため、相続人が新たにA証券会社に口座開設
③信託銀行の特別口座で管理されている場合、任意の証券会社の口座へ移管
相続人が証券口座を一切持っていない場合、別途口座開設が必要です。
なお、信託銀行内に別の特別口座を作ってそちらに移管することは出来ません。
手続きについては各金融機関によって扱いが異なります。
参考までに、いくつかの証券会社の手続きに関するページを記載しておきます。
4.株式配当金と受取方法
株式の相続手続きは「上場株式の移管手続きをすれば終わり」と思われがちです。
しかし実務では、株式配当金の取り扱いにも十分注意する必要があります。
株式配当金とは、企業が株主に分配する利益のことを言い、株主が保有する株数に比例して分配されます。
通常は決算日時点の株主に配当が行われますが、特別大きな利益がある年や会社の記念の年などには、特別配当、記念配当といったように別の時期にも配当がなされることがあります。
配当は毎年必ず行われるものではなく、業績不振のときや、業績好調でも企業の経営方針によって行われないこともあります。
株式配当金の受取方法は以下の4種類あります。
①株式数比例配分方式
上場株式の配当金やETF、REITの分配金を証券口座で受け取る方法のことです。
この方式を利用すると、配当金や分配金が支払い開始日に自動的に入金されます。
なお、同一銘柄を複数の証券会社で保有している場合は、その証券会社の口座で保有している株数に応じて、別々に配当金が入金されます。
②一括振込方式(登録配当金受領口座方式)
保有する全ての株式などの配当金を、一つの銀行預金口座で受け取る方法です。
③配当金領収証方式
発行会社の株式事務を代行している信託銀行から送られてくる配当金領収証などを、金融機関に持参して現金で受け取る方法です。
ほとんどの場合、ゆうちょ銀行の窓口で受け取ることになります。
対象銘柄が信託銀行等の特別口座で管理されている場合は、通常この方式で配当金が支払われます。
具体的には、配当金領収証の表面に受領印を押印し、配当金領収証の裏面に記載の取扱金融機関(ゆうちょ銀行等)へ持参することで配当金を受け取ることができます。
受領印は銀行や証券会社の届出印や実印以外のものでも受け取り可能です。
配当額や金融機関によっては、本人確認書類(運転免許証等)の提示が必要な場合がありますので、あらかじめ金融機関にご確認ください。
④個別銘柄指定方式
配当金を受け取る銀行預金口座などを、銘柄ごとに指定する方法です。
従来は③の配当金領収証方式が主な受取方法でしたが、株券の電子化に伴い2009年から①②の方式が加わりました。
③の配当金領収証方式以外の方式を利用するには、あらかじめ証券会社に申し込む必要があります。
5.株式の未受領配当金には要注意
お手元の株式資料の中に、「配当金領収証」などと記載された書面が出てきた場合は要注意です。
亡くなった方の保有株式に関して、まだ受け取っていない配当金が存在している可能性があります。
このようなことが起きてしまう例として、配当金領収証の交換期限切れが該当します。
配当金領収証には、銘柄ごとに窓口での払渡期間が設定されています。
通常は1ヶ月程度で期限切れになってしまうため、配当金額が少額な場合、ゆうちょ銀行の窓口に行くを後回したまま払渡期間を過ぎてしまうケースが多いのです。
この払渡期間を過ぎた場合でも配当金の受取は可能ですが、配当金領収証を送付した信託銀行等での手続きが別途必要となります。
受け取っていない配当金があるか調査したい場合も同様です。
なお、払渡期間とは別に定められた配当金の除斥期間を経過すると、配当金を受け取ることができなくなります。
配当金領収証を受け取ったら早めに配当金を受け取るようにしましょう。
5-1.未受領配当金の受取方法
故人名義の配当金であっても、受け取ることが可能です。
信託銀行等に連絡し、所定の手続きを行ってください。
相続開始後に支払われた配当金は、家賃収入等と同様、各相続人が法定相続分で取得することが原則です。
しかし全ての相続人の合意によって、相続財産に加えて遺産分割の対象とすることができるという判例(家賃収入について)があり、実務上はそのようにすることも多いです。
この場合、配当金は遺産分割が決定するまでの間は相続人全員の共有財産となり、配当を請求する権利も各相続人が有します。
全相続人の合意がないまま金融機関の窓口に配当金領収書を持参し、特定の相続人が配当金を受け取ったとしても、受け取った人のものにはなりませんのでご注意ください。
①申請書類の取り寄せ
対象銘柄を管理する信託銀行等の証券証券代行部に連絡し、未受領配当金を受け取るための申請書類を郵送で取り寄せます。
連絡をすると1~2週間程度で会社所定の必要書類がお手元に届きます。
②必要書類の準備
未受領配当金を受け取りにあたっては、上記①の申請書類の他に、以下の書類も準備しなれけばなりません。
- 故人の出生から死亡までの連続した全戸籍(戸籍・除籍・改製原戸籍)
- 相続人全員の現在の戸籍謄本
- 遺産分割協議書(相続人全員の署名と実印の押印が必要)
- 相続人全員の印鑑証明書(有効期限あり)
③支店窓口にて株式移管手続き
信託銀行等の窓口で手続きを行い、相続人名義の口座に未受領配当金を振り込んでもらいます。
窓口での手続きに1時間ほどかかり、その後、振込完了までに1ヶ月程度を必要とします。
なお、この手続きは支店窓口で行うことを推奨します。
郵送で行うことも出来ますがこの場合、戸籍謄本や遺産分割協議書、相続人全員分の印鑑証明書の原本を提出する必要があります。
特に複数の証券会社や信託銀行が相続手続きの対象となる場合、これらの返送があるまで、他の金融機関への手続きは行えないことになりますのでご注意ください。
なお、営業時間については、信託銀行の場合、通常は平日9時~15時までとなります。
6.株式配当金に関する税務
配当金が相続財産に該当するかどうかは、「相続開始日」、「配当基準日」、「配当確定日」、「配当を受け取った日」の4つの関係によって決まり、次のように取り扱われています。
なお、配当基準日と配当確定日の意味は以下のとおりです。
- 配当基準日‥‥配当などの権利が得られる日
- 配当確定日‥‥実際の配当金が確定し配当金交付の効力が発生される日
通常はその会社の決算日が配当基準日、株主総会の開催日が配当確定日となります。
その後、株主総会における決議後に配当金の支払がなされます。
①相続開始日が配当基準日の前の場合
相続人の配当所得として、相続人の所得税の対象に含めることになります。
相続税の計算対象に含める必要はありません。
②相続開始日が配当基準日から配当確定日までの間の場合
相続税の対象となります。
このケースの場合、株式保有者である被相続人は配当基準日時点では生存しているため、配当金を受け取る権利を有します。
その後、被相続人が亡くなり、後日支払われた配当金については、被相続人が保有していた権利が実現したものとしてとらえ、「配当期待権」として相続財産に計上することになります。
③相続開始日が配当確定日から配当を受け取るまでの間の場合
相続税の対象となります。
上記②のケースと異なり、生前、既に配当金交付の効力が生じているため、未収配当金として扱います。
④相続開始日が配当を受け取った後の場合
受取配当金がまだ残っていれば、現金預貯金として相続税申告がなされることになります。
この場合は、配当金という名目での申告は不要です。
また、この配当金は被相続人の配当所得にあたるため、準確定申告の対象となります。
配当基準日や配当確定日は銘柄ごとに異なるため、上記のどのケースにあたるのかを判断するには、発行会社のIR資料などを事前に調べる必要があります。
株式の相続では株式の移管だけでなく、配当金にも注意を払う必要があります。
株式の銘柄ごとに配当金の支払方法、配当金の有無を確認のうえ、未受領配当金の受取手続きや、相続開始時期に応じて適切な税務申告等を行わなければなりません。
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