令和元年5月24日、戸籍法の一部を改正する法律(令和元年法律第17号、同月31日公布)が成立しました。
法務省|戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)
2024年(令和6年)3月1日より施行される改正戸籍法により、相続手続きや行政手続きで必要な戸籍謄本を、本籍地以外の最寄りの市区町村の役所でも取得できるようになります。
≪今回の記事のポイント≫
- 戸籍謄本の広域交付制度が始まり、本籍地以外の最寄りの市区町村の役所等でも戸籍謄本等を取得できるようになる
- 広域交付制度の利用対象者は、窓口での請求者本人による取得に限定され、郵送や代理人取得(専門家の職務上請求含む)はできない
- 広域交付で請求できる範囲は、「本人・配偶者・直系尊属(父母や祖父母など)・直系卑属(子や孫など)」
- 兄弟姉妹の戸籍の取得や、郵送請求したい場合にはこれまで同様に本籍地を管轄する市区町村役場でのみ取得可能
利便性が向上した部分もあれば、逆に注意しなければならない点もあります。
これまでの戸籍請求方法と比較して、概要を確認していきましょう。
1.相続手続きにおける戸籍請求の重要性
相続が発生すると、下記のような様々な場面で、戸籍謄本等の取得を要求されます。
- 不動産の名義変更(相続登記)
- 相続税申告
- 金融機関での預貯金口座の解約手続き
- 年金事務所などの行政手続き など
相続手続きを始めるにあたり、まずは故人(被相続人)の法定相続人を確定するため、故人の本籍地を管轄する市区町村の役所などに戸籍請求をしていきます。
【取得する戸籍謄本等】
- 故人(被相続人)の出生~死亡までの全ての戸籍謄本等
- 相続人全員の現在戸籍(遺言がある場合を除く)
手続きをする法務局、税務署、金融機関などによって求められる書類に多少の差はあるものの、上記の1,2の取得は必須となります。
手続きを行う法務局、税務署、金融機関などで、法律上で規定されているもの、金融機関によって求められているものと、それぞれ根拠となる法律等は違いますが、遺産分割協議など、法定相続人が確定しない事には、相続に関する法律関係を確定させることができないからです。
戸籍の読み方・種類については下記のトピックスをご参照ください。
→法定相続人調査のための戸籍の読み方|相続の基本事項を司法書士が解説
1-1.戸籍謄本等の取得方法
実際に戸籍請求を行う上では、配偶者や子などの相続人の方(または委任を受けた専門家)が、窓口または郵送で戸籍請求をする事になります。
その際、窓口にきた(または郵送請求してきた)方が本当に相続権を持っている相続人本人なのかわからないため、請求書の他にも必要な書面として、故人と請求者自身のつながり(請求者=相続人であること)を証明するための戸籍を求められます。
「戸籍を取得するために必要な戸籍」と聞くと、頭が混乱してきそうですよね。
ですが、請求者が配偶者や子または父母であれば、自身の戸籍謄本に故人との繋がりが載っていることがほとんどですので、それほど難しい話ではないでしょう。
1-2.戸籍は本籍地がある市区町村の役所で取得
これまで、戸籍は「筆頭者」の本籍地である市区町村の役所に請求しなければなりませんでした。
戸籍は市区町村単位で管理しているため、改正戸籍法が施行されるまでは、本籍地以外の役所では取得ができません。(2024年2月時点)
本人の転籍・婚姻・離婚・コンピュータ化に伴う様式変更など、様々な事由によって戸籍は編成されます。
また、戸籍には原則、作成された期間中の情報しか記載されません。
相続で戸籍を取得した経験がある方はご存知でしょうが、過去に出生、離婚、養子縁組したなどの情報は、その当時の戸籍を確認しなければわかりません。
そのため、相続が発生した故人の死亡時の戸籍から遡りながら、最終的にその方の出生当時の情報が含まれている戸籍までの全てを、役所から取り寄せるという手間と負担が発生します。
1-3.本籍地移動ごとに戸籍謄本等の取得が必要
転籍や婚姻離婚などで本籍地が別の市区町村に移動すると、移動後の本籍地の戸籍謄本も必要となります。
本籍地移動前の役所では、移動前の結婚や子供の出生などの情報のみが戸籍に記載されるため、本籍地移動後の情報は記載されないからです。
引越し等で市区町村が変わるたびに本籍地移動を繰り返している人などは、現在の本籍地以外にも数か所に戸籍謄本等を取り寄せる必要があります。
そのため、戸籍を全て揃えるために2,3ヶ月かかることもあります。
また、故人が高齢の方ですと、家督相続や戦争等の理由で、戸籍が何度も改正されていることもあります。
兄弟が多い、養子を迎えた、婚姻離婚を繰り返したなど、家族関係が複雑な家庭では、戸籍の数も多くなってしまうため、専門家でなければ到底読み解けない状態の戸籍も数多くあります。
2.改正戸籍法の概要
令和6年3月1日より施行される戸籍謄本等の広域交付制度の概要は次のとおりです。
それぞれの内容を詳しく見ていきましょう。
2-1.本籍地以外の市区町村の役所窓口で取得可能
改正戸籍法の施行後は、本籍地以外の市区町村の役所窓口でも戸籍謄本等の請求が可能となります。
※電子化されたものを「戸籍証明書」といいますが、説明しやすいよう、本記事では「戸籍謄本」「除籍謄本」と記載します。
これによるメリットは大きく、
- 本籍地が遠くにある場合でも自宅や勤務先など最寄りの市区町村の窓口で請求が可能
- 複数の本籍地の戸籍謄本が欲しい場合でも、まとめて戸籍の請求が可能
となるため、何度も役所を往復したり、何箇所にも戸籍の郵送請求をしたりといった手間を省くことができるでしょう。
ただし、次に挙げるように、制度の利用には限定的な要素があります。
2-2.取得できるのは「戸籍謄本・除籍謄本」のみ
今回の広域交付制度で請求可能なものは、
- 戸籍謄本
- 除籍謄本
のみが対象となります。
戸籍謄本、除籍謄本の一部のデータのみを証明した戸籍抄本(一部事項証明書、個人事項証明書)は請求することはできません。
また、コンピューター化されていない一部の戸籍・除籍謄本や改正原戸籍なども対象外です。
戸籍謄本・除籍謄本以外のものは、従前どおり、本籍地の市区町村の役所で取得する必要があります。
2-3.取得できる範囲は請求者本人・配偶者・直系尊属・直系卑属のみ
広域交付で戸籍謄本等を請求できるのは、
- 本人
- 配偶者
- 直系尊属(父母、祖父母など)
- 直系卑属(子、孫など)
に限られます。
ある程度高齢の方で、配偶者との間に子がいない場合の相続では、法定相続の第三順位である兄弟姉妹や甥姪などが該当することがあります。
この場合、請求者本人がどの相続人の立場かによって、途中までは広域交付で取得できますが、その先は従来通り、本籍地の市区町村の役所で取得するケースも想定されます。
2-4.請求できるのは本人のみで代理人請求は不可
今回の改正戸籍法では、次の点は認められませんでした。
- 郵送請求が認められない(窓口請求のみ)
- 本人以外は請求できない(代理人や専門家の職務上請求含む)
戸籍謄本等の広域交付を請求する本人自身が、市区町村の役所窓口に訪問して請求する必要があります。
個人情報保護の観点と一部の役所に負担が集中するのを防ぐ趣旨から、広域交付制度の利用は、本人のみの窓口請求に限定されています。
郵送や代理人(司法書士、行政書士、弁護士などの専門職による職務上請求も含む)による戸籍謄本等の請求に関しても、従前どおり、本籍地の市区町村の役所に対して請求する必要があります。
なお、窓口に訪問した請求者の本人確認の為、以下の顔写真付き身分証明書の提示を求められます。
- 運転免許証
- マイナンバーカード
- パスポート など
相続人が配偶者と子一人といった、相続関係がシンプルな場合、今後は最寄りの役所の戸籍担当窓口に訪問して、戸籍を一括して請求利用することで、手続負担を大幅に軽減することができそうです。
ただし、兄弟姉妹や叔父・叔母などの戸籍謄本等は取り寄せができないため、一部の戸籍謄本は郵送や代理人による請求を併用する必要があるでしょう。
3.電子証明書の発行が可能となる
広域交付制度の他にも、戸籍に関係する改正点として、「電子証明書の発行」が可能となります。
今回の改正によって、戸籍電子証明書を発行できるようになります。
- オンライン上で市区町村の役所へ請求(最寄りでOK)、その市区町村がパスワードが発行
- 利用者が、戸籍の提出を求められている行政機関などにパスワードを提出
- パスワードを提出された行政機関が発行元のアクセスサーバーへとアクセスして電子証明書を請求、中身を確認
行政機関が自ら電子証明書をダウンロードし、そのパスワードで中身を見ることができるという仕組みのため、書面での戸籍は提出不要になるという制度です。
※パスワードの有効期限:3ヶ月
どの手続きに利用できるかについては現在検討中との事ですが、利用者はオンライン上での作業のみで各種の申請等ができるようになり、行政機関としては、サーバー側へと戸籍電子証明書の中身を確認できるようになるわけです。
紙の使用も削減できますし、紙を保管する必要がなくなるわけですから、ペーパーレス化を促進し、今後ますます便利になるでしょう。
全ての戸籍が電子化されオンライン上での確認ができるようになると、ゆくゆくは行政手続き全てをオンライン上で完結できるようになるかもしれません。
4.改正戸籍法施行後も専門家を頼るべき理由
今回の改正戸籍法によって、戸籍収集における大部分の手間が省略できる方もいるでしょう。
ただし、その場合でも、相続の手続きにおいては専門家に頼るべき、と言わざるを得ません。
その理由として次のような点が挙げられます。
- 取得した戸籍が全て揃っているとは限らない
- 兄弟姉妹などの戸籍は各地に郵送請求などしなければならない
- 戸籍取得以外の相続手続き全てを任せることができる
実際に、広域交付制度を利用することで一部の戸籍取得の手間は大幅に削減・時間短縮になります。
ただし、取得した戸籍に不足がないかを確認、内容を読み解くには、やはり専門的知識が必要です。
また、戸籍取得は必要不可欠な「作業」ではありますが、相続手続きの一部分にすぎません。
重要なのは、「遺産分割協議」や「不動産の名義変更」、「預貯金口座の解約」といった内容であり、「いかに円満に、スムーズに相続手続きを終えることができるか」という点です。
更には、単なる相続手続きでは終わらず、二次相続対策や、自身の認知症対策といった点も検討する必要もあるでしょう。
そうして考えてみると、やはり専門家を頼るメリットは今後も大きいと言えるでしょう。
『広域交付制度を利用し、ある程度の戸籍取得⇒専門家と連携していく』といった流れが、今後の相続手続きのスタンダードとなるかもしれません。
当法人では、戸籍取得から手続き完了、その後に必要となる対策まで、相続に関するトータルコンサルティングをご提供いたします。
相続手続きが発生した際には、是非一度、司法書士法人行政書士法人鴨宮パートナーズまで、お気軽にご相談ください。
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