1.経営者の高齢化が抱える問題
日本の高齢者人口は増え続けていて、その点は会社の経営者についても例外ではありません。
中小企業庁の資料による令和元年度の統計情報では、2018年の全国の社長の年齢分布において70代以上が28.1%、60代以上では58.4%と、約6割の企業が高齢化を迎えています。
この背景には後継者不在があり、60代では約半数、70代でも約4割の企業が後継者不在とのデータがあり、事業継続の危機という社会問題にも直面しています。
また、2020年における65歳以上の認知症の人の数は約600万人と推計されており、2025年には約700万人、高齢者の5人に1人は認知症になるとされています。
経営者が認知症になってしまうと、経営の判断の質が低下したり、言動から取引先の信用が低下してしまう、などの弊害が生じます。
場合によっては経営者の意思能力がないと主張され、契約の効力が無効である、と争いが発生する可能性もあります。
このような場合、他の取締役等は、どのように手続きをしていくべきなのでしょうか。
2.代表取締役が認知症となってしまった場合
次の例をご覧ください。
A株式会社の代表取締役はB、取締役にはBの息子であるCが登記されています。
普段からBは、「近頃物忘れがひどくなってきたので、会社の経営は息子であるCに任せている」旨を、取引先にも公言していました。
しかし、代表取締役はBの状態のまま、Bの認知症が悪化してしまいました。
この場合Cの取り得る手段はどのようになるでしょう。
順を追って見ていきましょう。
①代表取締役Bを解任する
まずはじめに、このままでは会社経営にリスク生じるため、代表取締役Bを解任する手続きを取っていくことが考えられます。
株主総会にて「取締役」Bの解任(代表取締役資格は自動的に失う)をしていくか、仮に取締役会を置いている会社でしたら、取締役会にて「代表取締役」の資格のみ先に解任することも可能です。
しかし、取締役会にて取締役の意見が一致しない可能性もあります。
また株主総会においても、特に中小企業などの場合には株式の大多数を代表取締役が持っていることも多く、代表取締役Bが議決権を行使した多数の票に意思能力の問題が残り、後になって株主総会の決議自体の効力が争われてしまう恐れがあります。
②法定後見制度を使う
上記①のような手続きには、不確定的部分がどうしても生じてしまします。
また、仮に経営する会社関係の問題をクリアしたとしても、その他の私生活においての問題が残ります。
預貯金が下せなかったり、不動産の売却や、施設の入所契約ができない等のBの個人的な問題は解決されません。
そこで、Bについて成年後見の申立を行うという方法が考えられます。
CはBの息子ですので、成年後見の申立を行うことができます。
代表取締役が成年被後見人となった場合には、取締役としての資格を自動的に失いますので、上記①で述べた手続きが確定的なものとなります。
(会社法331条の取締役欠格事由)
その後は、後見人に選任された者が、Bに代わって議決権を行使し、新たな代表取締役を選定していくことになります。
取締役会を置く会社では、Bを除く構成員による取締役会によって、新代表取締役を選定していくことになります。
また、必要に応じて株式の譲渡等を行い、経営権を承継していくことになります。
しかし、後見人に選任される者は、経営のプロではありませんので、適切な取締役を選ぶことができるとは限りません。
また、後継者について社内に争いがある場合には、正式な代表者が定められない状態が続いてしまうリスクは依然として残ってしまいます。
③任意後見制度を使う
法定後見制度は認知症になってしまった場合の制度ですので、今回の例のように既に認知症を発症してしまった場合、残念ながら法定後見制度を利用する以外の方法が無くなってしまいます。
そのため、経営者の意思がはっきりしているうちに、今後起こりうる認知症のリスクに備えておくことが何よりも重要と言えるでしょう。
対策方法の例
対策例としては、次のような方法が挙がります。
- 暦年贈与によって株式を後継者に移譲しておく
- 民事信託の契約をしておき、後継者を決めておく
- 任意後見契約を結んでおく
このうち任意後見契約では、まだ本人に意思能力があるうちに認知症になってしまった場合に備えて、信頼できる者を後見人に指名し予め契約を結んでおきます。
本人が認知症になってしまった場合は、後見監督人のもとで後見人が本人の代わりに権利を行使し、適切な取締役を選任することになります。
認知症はいつ発症するかわかりません。そして、発症してしまうと取りうる手段が限られてきてしまいます。
備えられるうちにできるだけ早めに対策を講じておくことで、安心して経営できる状態を作っておくことが望ましいと言えるでしょう。
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